【開催報告】Lecture for young architects #2 小西泰孝先生

建築学部では、オンラインによるLive講演会Lecture for young architectsを企画・実施しています。
5月の永山祐子先生に続き、6月26日には小西泰孝先生(構造家, 武蔵野美術大学教授, 小西泰孝建築構造設計代表)のレクチャーが開催されました。
小西先生は、建築家のデザインを構造から支える構造家として活躍している本学科卒業生です。レクチャーははZoomによるライブ配信で行われ、1年生から大学院生まdで約80名の参加者がありました。学外からも10名ほどの参加があり、先日のオープンキャンパスに参加してくれた高校生の参加もありました。

本学建築学科で学んだ思い出や、その後のキャリア、そして現在の構造家としての仕事、建築家との協働についてお話下さいました。
参加した学生からの感想をいくつかご紹介します。
なお、第3弾は7月24日(土)五十嵐太郎先生のレクチャーが決定しています。別途ご案内いたします。

■小西先生の講演を聴いて、私はこれまで構造に関して教わったことや構造に対しての自分の意識というのは小さかったので、「構造を考える」ことに対して、自分の知識や考えに上書きされたというより、新しく教わった、気づかされたことがほとんどだった。数々の作品紹介や、考えていく上で大切なことを聴いていく中で、これから自分の考えを広げられそう、深められそうだなと思ったことがたくさんあった。

特に印象的だった建物は上州富岡駅で、元のラフ画と最終的なデザイン・構造を変えた背景にまつわる話を聴き考えさせられた。富岡製糸場の最寄駅で、「レンガに人が集うデザイン」を本質とみなしたら、「本質的なところを考えてデザインをシフトする」と仰っていたのはまさに、構造以外の分野も一緒に考えるということに繋がるのだなと思った。ラフ画よりも実際のデザインの方が、利用する人の目線の幅があるようだったし、駅での人の動きを考慮した上での広々とした空間で、さらに安全性も考慮したデザインに変えていたからだ。また、安全第一として種別・形式・形状から座屈荷重などの構造の計算しながら、デザインを変えいくのは具体的にどれだけ大変なのか知ることはできなかった。しかし、構造以外の分野も一緒に考えることは、良い建物、本質が伝わる建物に繋がり、デザインをシフトすることは重要なのだと納得した。

中国美術学院民藝博物館では、ほぼ構造の骨組みができた時点で空間は作られるということを知った。また、神奈川工科大学のKAIT工房は「空間を作る」というのが伝わる建物だと思った。構造としての柱と、スペースの境界としての柱という2つの観点から見られるようなデザインを見て、「あえてそうしてみる」というのが伝わってきて、そうすることで他の建物にはない空間・特徴が生まれるのだと思った。大きなものを少なく=小さのものを多く、という構造的な考えだけでなく、利用する人たちのことも考えて、構造に寄せたデザイン、あるいはデザインに寄せた構造にしていくことが面白そうだと思ったし、将来自分もやってみたいと思った。

「2方向の力を考える」という考え方の例として挙げられた、金沢工業大学の構造で、地方の積雪荷重の差で構造は、やはり変わることを知った。そこで、日本にある伝統的な構造の建物や世界にある数々のその地域に合わせた特性のある建物は、そこでしか建てられない、様々な条件を踏まえた構造だとすると、とても価値のあるものだと考えが広がった。

学生時代にやってほしいことの3つは、どれも自分のこれからの行動に勇気ややる気を与えてくれることばかりでよかった。一番インパクトがあったのは、関心のある分野以外の建築の勉強をする、ということだ。建築は自分のフィールドでは決して完結できないとのことなので、今のうちに幅広く学び、得た知識や経験は役に立ったり、様々な視点で考えられるようになったりすると信じて、挑戦する意欲がわいた。また、建物をみる力を身に付けたいと思った。力をどのように身に付けるのか、つけていくのかはあまりわからないけれど、建物のどんなところに良さを感じるのか、を考えながら丁寧に見ていくことからはじめていきたい。そこから、自分はどういう建物を作りたいのかや自分の視点を確立させていき、デザインをシフトできる人にもなりたい。

■「石橋を叩いて渡る」この言葉を引用から始まったレクチャは、私(我々学生)が学んでいる建築学とは「叩き方を学ぶ」ことだと、そのようにおっしゃられているように感じた。多角的に建築を叩き、ほぼ正確に知覚し、創造していく。その一つの面としての構造や意匠等が存在している。それらは、乖離することなく互いに影響し合い、叩き合っているということもよく理解できた。富岡市の駅のプロジェクトでは、歴史意匠のコンテクスト読解から叩き出されたスケッチを、構造側から叩き返す。その後様々なプロセスを経て、建築として成り立っていく。

構造設計の対象のスケールの大小や、プロジェクトごとにフォーカス(今回主にお話しいただいた)している部材についてなど、構造面の中の話についても興味深かった。石上純也氏と共に手がけたKAIT工房では、通常ではあり得ないと思われる本数の柱について、非常に興味深い言及がなされていたが、このプロジェクトの最後のスライドに天井が写っており、そこには梁が不規則に並んでいたように見えた。その時に、何かその構造部材たちに、順序やヒエラルキーのようなものの存在を感じた。私は設計課題を行なってきた時に「どこまで設計するのか」と、ある種絶望のようなものを感じたことがある。それは能力的に可能か不可能かという問題もはらんでいるが、自身のフォーカスした対象から、どんどん広がっていく設計対象領域のようなものに対して感じていたような気がする。意匠設計というものは終わりがないのかもしれないが、構造設計にも終わりがないのだろうか。そのような疑問もあのスライドから感じると同時に、私の中で構造設計と意匠設計の境界がさらに曖昧になった。

今回のレクチャで感じたことは、今後の学習や実践の中で繰り返し思い出すことになるだろう。その時に良い叩き方ができるよう精進していきたい。この度は有意義なお話しをありがとうございました。(4年男子)

 

フライヤーPDFはこちら

【略歴】
小西泰孝建築構造設計代表
武蔵野美術大学造形学部建築学科教授
1970年 千葉県生まれ
1995年 東北工業大学工学部建築学科卒業
1997年 日本大学大学院理工学研究科修士課程修了
1997年 佐々木睦朗構造計画研究所入社
2002年 小西泰孝建築構造設計設立
2017年 武蔵野美術大学造形学部建築学科教授

【主な構造設計作品】
「神奈川工科大学 KAIT 構造(石上純也)2008」「上州富岡駅(TNA)2014」「立川市立第一小学校・柴崎学習館・柴崎図書館・柴崎学童保育所(シーラカンスアンドアソシエイツ)2014」「中国美術学院民芸博物館(隈研吾) 2015」「まちのこども園代々木公園(ブルースタジオ)2017」「金沢工業大学国際高等専門学校 白山麓キャンパス校舎・体育館(五井建築研究所) 2018」「宮島口旅客ターミナル(乾久美子)2020」など。

ページトップへ